愛を込めて極北

 「例年なら、極北の地が俺を呼んでいるような気がして、早く出発したくてたまらないんだけど、今年はちょっと勝手が違う」


 ……楠木の気持ちが日本に引きずられているのは、百合さんのせい?


 そして百合さんの中に、新しい命が芽生えたから?


 「まだ日本でやり残したことがあるから、出発の日を指折り数えている余裕なんてないんだ」


 そりゃあたくさんあるのでは?


 散々自立を求めて百合さんから逃げ回っていたけれど、子供ができたら話は別だろう。


 「……お前とのこと、このままにして旅立つ気にはなれないんだ」


 「は?」


 一瞬意味が分からなかった。


 「百合には話をした。時間はかかるかもしれないけれど……、いつかきっと理解してもらえるよう努力するから。だから」


 百合さんと話をした?


 いったいどんな……。


 「そばにいてくれないか」


 「……」


 「やっと分かったんだ。俺に今、必要なのは百合からの庇護ではないことに。お前が好きなんだ」