愛を込めて極北

　「さそりに刺されて死んだというオリオンは、さそり座が東の空に昇り始めると西の空へと逃げていく」


　ギリシャ神話に基く星座物語だけど、古代の中国の人たちもオリオン座が沈むとさそり座が昇って来ることは気付いていたようで、漢文でもそんな話を読んだことがある。


　「こうやって日本で星座を見上げられるのも、あの何日かな。極北に行ったらオリオン座は上半分しか見られないし、さそり座は全く見えなくなる」


　……星の話をしていて思い出した。


　真冬の支笏湖（しこつこ）キャンプ。


　頼まれて無理矢理参加して、緊張しっぱなしだったけど。


　温泉の帰りに、楠木と見上げた夜空はほんと見事だった。


　真冬の空に、宝石箱のように煌めいていて……。


　「……向こうの星空も、日本のとは異なる趣があるんじゃないですか」


　北極星は天頂近くに輝き、そこを中心に北天の星たちがぐるぐると回る。


　日本で馴染みの星座の中には、いくつか見られないものも確かにあるけれど、また別の良さが極北の空にはある。