愛を込めて極北

 ……最初は車の中で話をするつもりだったけれど、もう夜も遅いのでエンジン音が近所迷惑になりかねない。


 そこで車を降り、近所の小学校のグラウンドに入り込み、そこの遊具に腰かけ話をすることにした。


 「寒くない?」


 「大丈夫です、パーカー持ってきましたから。楠木さんは?」


 「これくらい何ともない。慣れてるから」


 昼間は初夏を思わせる陽気なものの、夜はかなり肌寒い。


 楠木は長袖とはいえ、かなり薄手。


 でも毎年、初夏は寒帯で迎えている楠木にとっては、この程度の肌寒さなど何ともない様子。


 「……」


 グラウンドの砂場の脇に、長い丸太を横にしたベンチのようなものがあった。


 そこに二人、少し離れて腰かけたまま、無言。


 話を切り出せずにいる。


 「……東の空から、夏の星座が見え始めている」


 急に星の話を始めた。


 東の空の地平線近くに、夏の大三角が昇りつつある。


 学校周辺は住宅街のため、このグラウンドからはあまり障害物のない夜空が見渡せる。


 都市化が進んでいるため、天の川までは見られないけれど。