愛を込めて極北

***


 「お待たせ」


 「お疲れさまでした」


 午後11時、待ち合わせの場所に本当に楠木はやってきた。


 そして車に乗り込むよう指示される。


 「……」


 「どうした。早く乗れよ。こんなところで駐車し続けたら、往来の迷惑だろ」


 近所の書店の駐車場にて待ち合わせ。


 私は奥のスペースに車を停め、楠木の車が駐車場の通路に停車中。


 今のところ新たに車は入ってきていないけど、通路をふさぐ形で停まっている。


 「こんなところで立ち話ってわけにもいかないだろ。とりあえず乗って」


 私は躊躇し、動かないまま。


 「もしかして警戒してるとか?」


 警戒していないといえば嘘になるけれど、勘違いしてると思われるのも悔しいので反応に困る。


 「そんなことしてたら、いつまでも話し合いできないだろ?」


 苦笑されて悔しかったけれど。


 この期に及んでは、もう何も起こり得ないだろうと予想し、助手席に乗り込んだ。


 思えば楠木の車に乗るのは、初めての経験のような気がする。