愛を込めて極北

 「二人きりで話がしたいんだけど。これから出て来られない?」


 早々に提案された。


 「今夜これから、テニスサークルなんです」


 「……じゃ、明日は?」


 「明日もテニスです」


 「明後日は」


 「テニスです」


 「明々後日は」


 「テニスです」


 「日曜日は?」


 「テニスです」


 「……さっきお母さんに話を聞いたら、テニスサークルの練習日は週に三日だって話してたけど?」


 「……」


 私が逃れられないよう、あちこちに守備網が敷かれているようだ。


 「……今夜、テニスサークルが終わってからなら時間作れますが」


 「何時くらい?」


 「午後11時」


 「えっ、そんな遅くまで練習してるの?」


 「活動は9時半までで。コートの後片付けや掃除なんかしていたら10時くらいになりますし。それからやっと帰宅したりお風呂入ったりで」


 「分かった。じゃ11時で」


 「そんな遅くて大丈夫なんですか?」


 あまりに遅い時間なので、ギブアップしてくれることを期待したのに。


 「かえって好都合かも。目前に迫った極北行き、時差対策で夜中過ぎまで起きているようにして、生活リズムを少しずつずらしてるんだ」


 私の策略は、逆効果だったようだ。