愛を込めて極北

 本当に交際宣言なんてされたらどうしようかとビクビクしていたけれど、それは実行に移されることのないまま。


 程なくして楠木は帰宅していった。


 駐車スペースを間違えて、隣の家に車を停めていたため、私は楠木の来襲に気付かなかったらしい。


 もしも交際宣言が実際に行われていたら、私も断る手段として百合さんの存在、そして百合さんは楠木の子供を妊娠中であることを母の前で公開する必要に迫られた。


 もうすぐ父も帰宅するだろうし、こんな重婚未遂疑惑のようなことを耳にしたら激怒することが予想される。


 そしたら我が家を舞台に、どんな騒動になっていたことやら……。


 少なくとも父が帰宅前だったのは幸いだった。


 ……などと一安心していたら、携帯電話に着信が。


 登録していない番号だけど、それは楠木だった。


 着信拒否されているプライベート用ではなく、あえて仕事用の機種を用いて電話をしてきたようだ。


 個人的な連絡というよりも、業務上の連絡事項がある時のために電話番号は知らせていた。


 履歴書にも書いていたし。


 「もしもし」


 話が途中で終わっていたこともあり、はっきりケリをつけておきたくて電話に出た。