愛を込めて極北

 「お前が人の居ない隙に夜逃げみたいな真似をするもんだから、東さんに電話してあれこれ聞き出したよ。持つべきものは友達だな!」


 私につられたのか、楠木も化けの皮が剥がれていつもの喋り方に戻ってきた。


 「だからって! 何なんですか人の家まで……」


 「お前が電話にも出ないし、メールも無視するからだろ。わざわざ来てやったんだ」


 わざわざ、という一言にカチンと来た。


 勝手に人の家に押しかけて、その言い方は何だ!


 「用があるんですか。わざわざ人の家に乱入するくらいだから、相当な用事でしょうか?」


 母に聞かれたらまずいので、若干声を押し殺しながら問答を続けた。


 「お前との交際宣言しに来たって言えばいい?」


 え!?


 私は言葉を失った。


 「何バカなこと言ってるんですか。そんなことできるとでも思ってるんですか? これから子」


 これから子供が生まれるというのに……と言いかけた時。


 「ごめんなさいねー。親戚のおばさんから電話がかかってきて」


 携帯電話を持っていない、高齢の親戚のおばさんが家電に電話してきたようだ。


 母が戻ってきた段階で、楠木との会話は中断されてそれっきりとなった。