そういえば楠木は、百合さんに子供ができたことに関しては全く触れていなかった。


 子供まで作っておきながら、どの面下げて……。


 「楠木さんも、さぞかしお喜びでしょう」


 心を押し殺しつつ、必死で告げた。


 「……まだ暁には伝えてないの」


 「えっ、どうしてですか」


 「愛し合った日から計算して、そろそろ安定期に入るはずだから、折を見て伝えようと思うの。出発前の大事な時に、暁に余計な心配をかけたくないから」


 「……ならば無理して、わざわざ北海道まで来ないほうがよろしいのでは。飛行機の乗り降りだって、相当の」


 「無理を押して直接釘を刺しておかないと、あなた何をしでかすか分からないから」


 「まさか、そんな」


 「現に暁を洗脳して、私と別れるようにそそのかしたんでしょう? だから暁はさっき私に、あんなことを……」


 「それは誤解です」


 「今更もう過ぎたことは仕方ないわ。今大事なのは、暁が心穏やかに出発の日を迎えることと、この子が無事に出産の日を迎えること。それが何より優先するの」