愛を込めて極北

 「……」


 一瞬にして、全てが崩壊した。


 楠木を束縛し、不自由を強いる百合さんの手から救い出そうだなんて、困難の海へと漕ぎ出すヒロインじみた決意。


 どうすることもできない現実という、果てしない氷原を前に撤退を余儀なくされる小舟みたいなもの……。


 「あなたはまだ若いし、私の切実さなんて理解不能かもしれないけれど。このチャンスを逃したら、もう暁の子供は産めなくなるかもしれないから、何としてでも仕事と両立させてみせる」


 自信満々の笑みを浮かべる。


 「それは……。おめでとうございます」


 そう口にするのがやっとだった。


 恋人同士の間柄だったら、その人が相応しくないと思ったら、自分が取って代わろうって気持ちもまだ正当化できる。


 だけど子供ができてしまっては……。


 当事者同士の問題だけでは済まされないし、子供の幸せを摘み取ることはさすがにためらわれるので……。


 身を引かざるを得ない。