愛を込めて極北

 「あなたも暁の次の旅を成功させたいって思うでしょう? だとしたら余計なことをして引っ掻き回さないで、おとなしくこのまま去って、二度と彼を迷わせないで」


 高圧的な懇願。


 ……わざわざ東京からここまで来て、私にそんなことを繰り返すってことは。


 多かれ少なかれ、突然の楠木からの白紙撤回要求に動揺していると推測される。


 つまり……焦りがあるのかも。


 「もうすぐ暁は、極北へと旅立つ。出発直前につまらないことで集中を損なうようなことはさせたくないの。極北の旅はお気軽な観光旅行とは違う。一瞬の油断がまさに命取り。目先の一歩一歩に集中していないと、足元の氷が砕けて氷の海に真っ逆さま……ってこともあり得る。だから出発前のくだらないトラブルは、全て私が摘み取る必要があるの」


 「つまらない」「くだらない」


 百合さんの中の私の存在って、所詮はその程度のレベルなんだ。


 駆除しなければならない害虫レベル。