愛を込めて極北

 「落ち着いたらまた、顔を出してくださいね」


 「突然のことで本当にすみません。また機会がありましたら、その際はよろしくお願いしますね」


 事務所の人たちに繰り返し頭を下げ、私物を抱えて事務所を後にしようとした時だった。


 突然事務所のドアが開いた。


 「!」


 「あら? 夜逃げでもするつもりだったの?」


 予期せぬ人と遭遇してしまった。


 甘い香水の香り。


 真っ白なカサブランカのように華やかなその人は……。


 「百合さん……」


 楠木は今東京にいるにもかかわらず。


 こんな夕暮れに百合さんは、どうしてここに一人で……?


 「話があるの。これからちょっといいかしら」


 有無を言わせぬ雰囲気だった。


 何やらよからぬ予感がしたものの、逃げられる雰囲気ではなかった。