愛を込めて極北

 「ならばなぜ、いつまでも飽きずに極北まで行き続けるの? しかも例年ずっと同じような場所。いくらそれが仕事になるからって」


 極北への旅には、高額な出費を要する。


 旅を続けるために帰国後、写真集を出版したり書籍を執筆したり、講演会やマスコミ出演などなど、全国飛び回ってお金を稼ぐ。


 いくらリブラン社からの支援があるとはいえ、少しでも自力で稼ごうとしている。


 一般的な人だったら、なぜ楠木がそこまでして旅にこだわるのか、もはや理解不能な領域だろう。


 それでも楠木は旅を続ける。


 かつてエベレスト登頂者がチャレンジの動機を「そこに山があるから」と表現したらしいけれど、楠木も「極地が俺を呼んでいる」などと言って苦行みたいな旅を繰り返している。


 「……俺から旅を取り上げることは、全人類から酸素を取り上げるのと同じだっていつも話してるだろう?」


 「旅立ったら南国でもヨーロッパでも。もっと安全で暖かい地域は無数にあるのに?」


 「極地じゃなきゃだめなんだ」


 「……分かってるのよ。あなたから旅を取り上げることは、死ぬのも同じだってことくらい。だから私はその夢を支えてあげたいの」


 楠木は何も答えられず、再び西の空を見つめる。


 辺りは次第に夜の闇に包まれつつある。