愛を込めて極北

 「いつまでも何見てるの、こんなところで」


 楠木のそばに寄り添い、肩を抱くように手をかける。


 「……空」


 「また空? 飽きもせず」


 「……」


 「私を見つめるよりも、空を見上げている時間が果てしなく長いから」


 「……この空は極北へと繋がっているから。見ているだけで旅に出たような気分になれる」


 「見ているだけじゃ、旅には出られないのに」


 百合さんはそう言って、楠木の正面に回り込んだ。


 「お金を貯めて、道具を揃えて、航空券も手配しないと……。行きたい場所にも行けないじゃない?」


 そっと微笑み、楠木の首に手を回す。


 「想像するくらいなら自由だろう」


 と同時に、楠木は百合さんから顔を背けた。


 「……誰も追いかけて来られない場所へと、逃げていく夢でも思い描いているの?」


 「百合、」


 「北極圏までは私は追いかけて行けない。私から逃れるために旅に出るんでしょう?」


 「な、何言ってんだ」


 黄昏の中でも、楠木の動揺が見て取れる。