愛を込めて極北

 どこか遠くを見ている。


 この空ははるか極北の地まで続いている。


 そうたやすくは飛んで行けない遠い場所へと思いを馳せている。


 今ここで地平線の下へと沈んだ太陽は、時差半日の北米大陸で程なく夜明けを迎えるはず。


 いや……極北はそろそろ、白夜を迎える頃かも。


 そんなことを考えながら、楠木に声を掛けるタイミングを窺っていた。


 眼下に佇む私ではなく、遠い遠い大地を見つめるかのように物思いにふける姿に、なかなか声を掛けられない。


 いつしか日の入り後の空は、みるみる紫へと変わりつつある。


 「楠、……」


 ようやく目線がはるか向こうの稜線から、手すりに置かれた指先に移ったタイミングを見計らい、声を掛けようとした時だった。


 「暁」


 私の声をかき消すかのように、誰かが背後から楠木を呼んだ。


 百合さんだ。


 楠木を追うようにバルコニーへと姿を現した。