「……ずいぶん熱心に読書中ね」


 動揺しているのを悟られたくないし、それ以上に関わり合いになりたくないので。


 私は副社長を無視して、さっきまでデスクで読みふけっていた本に目を通し始めた。


 「ナショナル・ジオグラフィック誌のフランクリン隊特集ね」


 副社長は私が読んでいるものを覗き込んできた。


 キングウィリアム島近郊の海底で発見された、フランクリン探検隊二隻に船の内の一隻、エレバス号と思しき沈没船の調査レポートが掲載されている。


 「もしかしてあなた、暁にくっついて現地まで行こうとしてるの?」


 「いえ、そこまでは」


 「新婚旅行気分で行けるような場所じゃないんだから、足手まといになるだけよ」


 「それくらい、分かってます」


 いい加減うんざりして来たので、つい声に苛立ちが表れてしまった。


 「一回やっただけで、調子に乗らないでもらえる?」


 急に副社長の声が低くなる。


 「私、調子に乗ってなんか、」


 「ふーん、やっぱり」


 「!」


 カマをかけられたようだ。


 うっかりした私の反応により、副社長は私と楠木との関係を確信してしまった。