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 「滅私奉公、ご苦労なことね。日曜日だっていうのに」


 「!」


 背後から突然女性の声がして、私は飛び上がりそうになった。


 「あなたは……」


 リブラン社副社長・白井百合さんだ。


 楠木の車もなかったし、自宅も人の気配もなかったため、もういないものだと思い込んで安心しきっていた。


 まだいたんだ……。


 「ほんとお疲れさま。せっかくの日曜日、いつもそうやって暁のために費やしてるってわけね」


 「……今日はたまたま、当番だっただけです」


 鉢合わせるくらいなら、やっぱり誰かに交替してもらい休めばよかった。


 激しく後悔した。


 今、他に事務所には誰もいない。


 留守番中の私と、副社長二人きり……。


 「暁は朝早くから、札幌市内の書店に打ち合わせに出かけて不在よ」


 無意識のうちに楠木の姿を求めていた私を見透かすかのように、副社長はそう言い放った。


 「私もついていく予定だったんだけど、一人で行くからまだ寝ててもいいって。……最近一晩中ずっと一緒だから、寝不足が続いていて」


 二人の関係を示唆する言葉が出てきた途端。


 私は耐え切れず顔を背けた。