アンダルテ ~王女と騎士の物語~

「ノートンがいつまで経っても祖の森の話しかしないのは、あなたがすぐ逃げ出して先へ進めないからでしょう。アデル。」


すると後ろからあきれたような声とともに現れたのは、豊かなブロンドの髪を持ち品格のあるドレスに身を包んだ女性だった。
彼女はゆっくりとアデルのそばへ歩いてくると、隣へ腰かける。女性の登場に驚いたリスたちはすぐに樹へと駆け上りと葉と葉の間からこちらをのぞき込んでいた。


「お母さま…。だって私」
「あなたが祖の森の歴史の授業を受けたくないのは重々承知しているわ。でも、私がアデルに学んでほしいのは、祖の森の歴史でもモルゼの歴史でもないのよ。…そうね、今一番すぐに覚えて欲しいのはエルガーべの歴史でしょうね。」


アデルにお母さまと呼ばれたこの女性は、そう、モルゼ国の王妃にあたるカトリーナである。
第二王女のお転婆に毎度手を焼いているが、いつでも気品に満ち溢れ優雅な所作は忘れない。しかし、アデルがどこに逃げても一番最初に彼女を見つけるのは王妃なのだ。王妃は、困ったように眉尻を下げながらアデルのほほに手をあて優しくなでた。アデルがくすぐったそうに目を細めると、王妃はその様子に微笑む。


「あなたも知っての通り、来週はロゼリアとエルガーべの第二王子が結婚するのよ。式はモルゼで行うから、参列するエルガーべ国の方々をおもてなしするのが私たちの役目。だからあなたには一通りのマナーと相手国についての歴史を知っておいてほしいのよ。」


「マナーだったら一通り身に着けているわ。」


「ええ、マナーについては心配していないわ。でも、いつまで経ってもノートンの授業から逃げ出すあなたを見て私やエレナが気が気じゃないというのは知っておいて頂戴ね。
アンダルテの国々の歴史はすべて祖の森から始まるのよ。この王宮の書庫にはモルゼと祖の森の歴史の文献しかないでしょう?ノートンはエルガーべの書物を使ってあなたに授業をしてくれているの。もう少し我慢して聞いていればきっとすぐにあなたの知らない知識に出会えるわ。」