アンダルテ ~王女と騎士の物語~


アデルは、もしかすると目の前の騎士が昨晩の事件を話してしまうのではないかと内心はらはらしながら見つめていたが、エルガーべ国王にはそれが好奇心の目に映ったらしい。
姫の様子に気がつくとエルガーべ国王は、何故か放心状態のドモラックを置いて騎士の方へと向き直った。



「おお、この者が気になるのかな。紹介しておこう、アデル姫。彼は、先日ウィルの専属護衛騎士となったゼンだ。」



「初めまして。
お会いできて光栄です、モルゼ王女殿下。」



丁寧な仕草で挨拶するゼンに、アデルは安心したようにほっと息を吐いた。初めましてということは、彼は知らなかったフリをしてくれるということだろうか。




眉間に皺を寄せてゼンを凝視するアデルに首を傾げつつ、ドモラックが口を開いた。



「これはこれは、モルゼにもそなたの噂は届いておりますぞ、ゼン護衛騎士殿。若くしてアンダルテでも名高いエルガーべ騎士団の副団長に任命されたとか。機会があればうちの騎士団の者たちに指南をお願いしたいものですな。」



エルガーベは、国の男が幼少期から剣を持ち、剣と共に育つと言われるほど剣術が発展した国である。そのため、大陸5カ国の中でも群を抜いて優秀な騎士が揃い、かつその騎士団は大陸一と称されているのだ。
副団長などただ剣術上手いからというだけで若者が与えられていい役職ではない。ましてや王子の護衛騎士である。
なるほど、昨晩の見事な身のこなしはそういうことだったのか。
アデルは腑に落ちると、1人でしきりに頷いた。




「護衛騎士だからな。ウィルの付き人として彼もこの国に移り住むつもりだ。よいかね、ドモラック。」





「ああ、もちろんだ。殿下も騎士殿も我々の家族同然だな。」





自国の騎士が褒められることが嬉しいのか、エルガーべ国王はにこやかに話している。対するドモラックもその横の王妃カタリーナも、新しく迎える家族に優しげな表情を向けている。
そんな中、アデルだけが真っ青な顔をして前を見つめていた。



ゼンがいるのは今回の滞在だけだと思っていたが、ウィルの専属であるから彼はこの先もずっとモルゼにいるのだ。



「そんな…!?いつかこの先お母様に告げ口されたら…困るわ…!」



彼女は冷や汗が流れるのを感じた。