さて、肝心のアデルはというと
何度も練習した挨拶がおざなりになってしまうほど、
国王たちの話が一切耳に入らないほど、別のものに気を取られていた。
恋人と再会を喜ぶ王子や気ままに立ち話をし始めた国王たちの後ろで、先ほどから一切微動だにせず待機している青年。腰には、エルガーべの紋章の入った剣を携え、騎士らしい装いに身を包んだ彼は、穴が空くほど凝視しているアデルの視線を受け流して、次の指示を待っているかのように国王や王子を黙って見つめていた。
まさか…?
いや、でもあまりにも似ていてて…
アデルは、記憶を引っ張り出して昨日出会った黒髪の青年の容姿を思い出した。
緩く目にかかっていた前髪を後ろにかき揚げ、騎士に相応しい髪型や服装へと変わっているが、見れば見るほど背丈や表情が昨日の青年と瓜二つである。
おまけに腰に携えた剣が昨日の者と同一人物であることを物語っていた。
アデルは、つい目の前の青年に声をかけて確かめようとしたが、横に王妃カトリーナがいることを思い出し青ざめる。
何があっても昨日のことは母に知られてはならない。
ましてや、男たちに襲われたことなど王妃の耳に入った暁には、ナーシャが罰され、両親の過保護に拍車がかかり、アデルは当分部屋からも出してもらえなくなるであろう。
「…私のこと気づいたかしら?でも、騎士ならきっと気づいているわ。絶対に黙っててもらわなきゃ。」
