アンダルテ ~王女と騎士の物語~


春先とはいえ、夜は未だ冬のように寒くアデルが呼吸をするたびに吐いた息が白く広がる。舗装の悪いレンガ敷きの道にカツカツとヒールの音を鳴らしながら、アデルは夜の城下町をひたすら歩いていた。


「塔からそんなに遠くないはずなのに…。夜だと急にわからなくなってしまったわ。」


城下町とはいえ、王都の外れに位置するこの街は人気がなく閑散としている。先ほど、黒いフードを被った男2人組とすれ違ったっきり誰とも出会っていなかった。アデルはいつの間にか迷ってしまい途方に暮れていた。



歩くのにも疲れ、歩道沿いのベンチで休もうとしたその時、強い力でローブを引っ張られ薄暗い裏路地に引き込まれた。声が出る前に口元を抑えられ、アデルの心臓が嫌な音を立て始める。
ぎゅっとつむった目を開けると、先ほどの黒いフードの男たちが口元をにやつかせながら目の前に立っていた。
月の光も街灯の灯りも届かないため、顔ははっきりと見えず、白くのぞいた歯といやらしげにアデルの体を舐め回す視線だけが暗闇に浮いていた。
口元の手を振り払おうと抵抗すると余計に力を加えられ、むしろ目元まで被っていたフードを剥ぎ取られてしまう。
アデルの艶やかな銀髪が露わになると、男たちはほぅっと嬉しそうな声を上げた。



「まだ少し幼ないが数年もすれば絶世の美女だな。見ろ、髪だけじゃない。こりゃ、高くつくぜ。」


「ランドルフのお貴族さん方が獣のように食い付くのが目に見えるな。」


「嬢ちゃん、こんな時間にこの街を出歩くなんてさらってくれって言ってるようなもんだぜ。」



男たちは淡々と会話を続けながらも、口元の手は緩めず相方が慣れた手つきでアデルの腕を縛り上げた。
ロープの結び目が腕の皮膚を巻き込み思わずアデルは言葉にならない声をあげる。


男たちは、アデルの声を聞いた途端瞳の色を変えた。