でも。
それはできない。
私のわがままで尊を縛ってはいけない。
尊の幸せを願わなくちゃ。
だって、尊が好きだから。
好き、だからこそ。
「幸せでいてね、尊」
「亜子・・・?亜子、おれは・・・」
「亜子ー!そろそろ行くわよ!」
尊の声を遮るように遠くからお母さんの声。
私は立ち上がり振り向くと、お母さんに向かって答える。
「すぐ行く!」
切り替えるように歩き出す。
振り向きはしない。
覚悟が揺らぐから。
尊の姿を見てしまえばきっと。
私はその手を引いて連れて帰ってしまいたくなる。
それ程大切な存在になった。
大好きで、かけがえのない。
「お母さん、帰りは運転してくれない?」
「いいけど、どうしたの?疲れちゃった?」
「うん。そんなところ・・・」
私は後部座席に乗り込む。
お母さんが運転席、おばあちゃんは助手席に。
ゆっくりと動き出した車。