「ごめんなさい、遅くなって…」


舞衣は凪の顔から冷たさがなくなるのが分かった。
舞衣が来てホッとしたような、そんな悩まし気な顔になっている。

凪は何も言わず舞衣の肩を抱き寄せた。
舞衣のお人好しな性格に言いたい事は山ほどあったが、でも、今夜はもっと他の大切な話をたくさんしたい。
少ない時間を二人のために価値あるものにしたかったから。


「階段から降りようか」


凪の住居フロアは2階下のために、凪は非常階段の扉を開けた。
舞衣の手を取り、ゆっくりと階段を下りる。


「ほら、ここからの景色見てみ」


凪の視線の先をたどると、階段の踊り場に四角い小さな窓があった。


「ちょうどキャンバスサイズの窓だから、また違ったような景色に見えるんだ」


舞衣は凪の下でその窓を覗き込んだ。


「あ…… スカイツリーが見える…」


舞衣は頭の上で凪がクスッと笑うのが分かった。


「ねえ、この景色をちゃんと覚えておこう。

この小さな窓から見えるこの夜景は、俺にとって、特別なものになった。
俺の中の夜景ランキング一位に急上昇した」



「え? 一位に…?」


舞衣が振り返り凪の顔を見ると、凪は今まで見たことのない穏やかな柔らかい笑顔を浮かべていた。


「小さな箱の中を覗くと、気が遠くなるほどの美しい世界が広がってる。
今の俺には、そんな風に見える……

なんだろう……

きっと、舞衣を近くに感じて一緒に見てるからかな…?
舞衣と一緒にいると、今まで見えなかったものも見えるような気がするんだ…

不思議だよな…

世界って、こんなに美しかったんだ……」