あれ?てっきりそのまま俺の家に向かうと思ってたのに。

「ごめんなさい。色々準備があるので明日の朝に拓海さんの部屋に行きますね。あ、合鍵で入っても大丈夫ですか?」

だいぶ前に渡した合鍵。

俺が忙しくて使う機会もなかったものだ。

上目遣いに尋ねるあゆが可愛くて、クスリと笑って頭を撫でた。

「もちろん。やっと出番がきて合鍵の方も本望だろ」

俺の言葉に花が咲くような笑顔を見せる。

本当。可愛い奴。

そのまま家に連れ帰りたいけど、あゆの誕生日の願いを叶えるため、ここは俺が我慢しなきゃな。

「家まで送るよ。ほら、行こう」

微笑んで手を差し出せば、ためらいがちに細くて小さな手が俺の手を握る。

普段、会社で手を繋ぐなんてしない。

残業で遅くなったから、社内はほとんど人がいない。だから今日は特別。

二人して慣れないことに照れながら専務室を出る。

さて。お姫様を無事に送り届けなきゃな。

握りしめた小さな手の温もりに満足しながら、もう片方の手の中で、車のキーがチャリっと音を立てた。