私が顔を上げてもそこには
誰もいなかった。
たしかに今、誰かに呼ばれていたはずなのに…
それに…あの声は…まさかね…
『恵』
気のせいだと思った瞬間に聞こえてくる
私の大好きな声…
そんなわけないそう思っていても
私の足は、あの桜の木を目指していた
皐月と約束をした場所…
また一緒に見ようって言った場所…
だが、そこには誰もいなかった…
「だよね…いるわけ…ないか…」
ポタ…
「会いたい…会いたいよ…皐月」
桜の木に寄りかかりながら私は
涙を流していた
すると…
「恵」
不意に私を抱きしめてくれた温もりに
懐かしさを感じた私は後ろを
振り返った

