「アキくん、ハルさんの容態なんだがね……。今はひとまず、薬のおかげで落ち着いて眠っているよ」


木村先生は神妙な面持ちで言葉を付け加える。


「でも、本当に大変なのはこれからだ。目を覚ました彼女が一体どんな状態なのか……誰にも分からないからね」

「先生。俺は、……取り返しのつかないことをしてしまいました……」

俺は木村先生に、後悔の念を告白する。


「ハルは、いつだって前を向いて必死に行動していた。今の現状を変えようと、努力していた。俺は心の何処でそんなハルを、否定し続けていたんです」

木村先生は、何も言わずに俺の懺悔に耳を傾けてくれている。

「大きな変化を望むよりも、……変わり栄えの無い日常を……彼女にとっては恐怖でもある、繰り返す日常を……俺は、選び続けていた……っ。過去を振り返ってばかりで、前に進もうとしていなかったのはハルじゃない。俺の方、だったんです……」


頼りないか細いその声は、広い廊下に虚しく吸い込まれてゆく。