「すぐに帰って来るさ。だから少しの間だけ、ここにいれば良い」

もうハルの両親は帰って来ない。

事故でぐちゃぐちゃに潰れて、今は墓の下で眠っている。


彼女には、絶対伝えれない。

だからこれで良い、……これで良いんだ。



ハルは少し表情を和らげ、ペコリと頭を下げた。

「では、少しの間お世話になります」





「ああ。……今日はもう遅いし、休んだらどうだ?明日はお前は仕事が休みだと聞いたが」

「えっ! そうなんですか? 」

もちろん、これも嘘だ。


本当ならば彼女はもう、仕事を退職している。

「明日、お休みかぁ……。なにしよう……。ずっとこの家にいても、貴方に悪いですし……」


俺は思い切って、長年の願いを口にする。

「……なら、明日1日は……キッチンに立って、料理を作ってくれないか」

「え、料理ですか? 」


彼女はキョトンとしながら首を傾げた。

料理はいつも俺が担当している。

だから俺は……、どこかに旅行になんて行かなくても良い。


夜の営みも出来たらしたいが、無理強いはしない。

ただ普通の、新婚生活で彼女が担う筈だった、手料理が食べたいのだ。

ハルはにっこりと笑う。


「はい。別に良いですよ。そんなに上等な物は作れませんが……」