……いや、まだだ。


この部屋があの男の部屋ならば、オートロックのパスワードがどこかに隠されているかもしれない……。


絶望から零れ落ちそうになる涙を拭う。


「そうだ、まだ諦めちゃダメなんだ……。私には、今頃きっと朝になっても家に帰って来ない娘を心配している……お父さんとお母さんが、家で待って居てくれてる筈だから」


そう、私には……病弱だけどパートで頑張っているポッチャリ体型の母と、定年退職してから慣れない家事を手伝って母を支えている、頑固な父がいる。


私の大好きな大好きな、両親が待っている。


グッと足に力を込め、ベランダの地面からお尻を持ち上げる。


誘拐犯なんかに負けてたまるか。


絶対に、ここから脱出してやる……!

「よしっ」


私は嫌々ながらも、この部屋を物色することにした。