うろたえる私に、男は告げる。「どこって、会社だよ」男は皮製の鞄を手に持ち、早足に玄関へと向かった。私は慌ててその後を追いかける。その様子を振り返り見て、男は微かに笑ったような気がした。靴を履きながら、男は口を開く。「良いか、この家からは絶対に出るんじゃないぞ。もし出たければ、この特殊なオートロックの扉を開けるんだな」どうやらこの玄関扉は、内からも外からもパスワードを4桁入れて、鍵をかけることが出来るらしい。「もちろん、俺はキーを持っているから、パスワードなしに開け閉めできるが。逃げ出したければ、パスワードの4桁を当ててみろ」それと、と男は言葉を続ける。「俺の名前は、アキだ。明彦だから、アキ。じゃぁなハル。7時には帰ってくる」「ちょっ! どうして、私の名前を……」男はガチャリと玄関の扉を開ける。「まぁ、俺の名前を教えた所で明日には関係なくなるけどな……」そう意味深な言葉を残し、男は去って行った。