ー ……崖の上の、とある一軒家では。




「おかぁしゃん、ジューチュちょうだい! 」


拙い足取りでトテトテと、愛しい我が子が私に歩み寄ってきた。


「あらあら。夏美、そんなに走っちゃ危ないわよ。はいはい、ジュースね」


パックジュースを手渡すと、夏美は小さな手でしっかりと掴みながら、嬉しそうにストローを吸い上げる。


そんな我が子を見つめていると、いつものように笑みが溢れてきた。


「ああ、本当に可愛いなぁ……。あ、もうすぐお父さんが帰って来るわよ」

そう声を掛けると、彼女の顔はパァッと輝きを増す。


「おとうしゃん! かえってきゅるの? 」

と、その時だった。



「ただいまー」


疲れた声と共に、ガチャリと玄関の扉の開ける音がリビングに届く。


「あら、噂をすれば」

「おとうしゃーーーん! 」

私が立ち上がるよりも先に物凄いスピードで廊下を走ってゆく我が娘に、思わずブハッと吹き出してしまった。