さすがにおかしい。


そう感じた従業員の男性は店の奥へと足を進めた。


『エミさん？　スマホありましたか？』


エミというのは蒔絵さんの源氏名だ。


従業員の男性は蒔絵さんのスマホを鳴らしたまま足を進める。


従業員の控室に入ると、蒔絵さんのスマホを見つけた。


しかしそこに蒔絵さんの姿はなかった。


トイレかな？


スマホを取りに来たところでお腹でも痛くなってトイレから出て来られなくなったのかもしれない。


そう思った従業員の男性はトイレに向かった。


『エミさん？　大丈夫ですか？』


従業員の男性はそう声をかけた。


しかし中から返事はない。


見ると、トイレのドアの鍵もかけられていない状態だった。


『エミさん？　開けますよ？』


そこで従業員の男性が見たのは、カーテンレールにかたく結ばれたロープと、そのロープの先端で首を吊っている蒔絵さんだった……。