「ほ、ほんとだよ！　あたし月乃が誰かに電話してるところを聞いたんだから」


そう言う百花の目はあからさまに泳いでいる。


誰がどう見ても嘘だった。


しかしアンミは怒りにまかせて出まかせを真実だと思い込んでしまっている。


教室の中が不穏に空気に包まれていくのがわかった。


アンミの怒りで雰囲気がここまで変化するのだ。


その時、タイミング悪く月乃が教室へ戻ってきてしまった。


その手にはアンミに言われた通り買って来た缶コーヒーが握られている。


「アンミの好きなコーヒー買って来たよ！」


月乃はアンミの忠実なシモベであることを喜んでいるかのような笑顔で歩いて行く。


「ありがとう、月乃」


アンミが優しげな声でそう言い、缶コーヒーを受け取る。


クラス中の誰も、なにも言わずにその光景を見つめていた。


アンミが大人しくコーヒーを飲むとは思えない。


案の定、アンミはプルタブを開けると迷うことなく茶色い液体を月乃の頭からかけたのだ。


コーヒーの匂いが充満していく。


アンミの笑い声が聞こえ、それに同調するように百花が笑い始めた。


月乃は茫然と立ち尽くしているだけだ。


顔にはいまだに笑顔を張り付けている。