「うわぁー!海だァー!」



いつもの砂浜ではなく。



近場の美しく手入れされた海。



青い水は透明度が高く飛び込みたくなる。



寒いけど。



「先輩、ありがとうございます!」



「あぁ、愛生は、海好きなんだな。」



「はい、母との思い出が、海だけなんで」



「そう、なのか」



「えぇ、まぁ、どうせ家に帰っても
母も父もいませんけど」



今日は、無駄にしゃべってしまう。



なんでだろう。



顔を上げると
先輩が波ギリギリに立って
海を眺めていた。



指で四角を作る。



「カシャ。」



「ん?どうした愛生。」



「いえ、綺麗だなぁーって」



「あぁ、そうだな。

あぁ、そうだ愛生。」



「はい、何ですか?」



「ん、スマホ、出せよ」



先輩がスマホ片手に手を伸ばす。



意味がわからないままスマホを渡すと
先輩が少しだけ操作する。



「ん、なんかあったら
いつでもかけてこい」



返されたスマホには
先輩の電話番号とメアドが登録されていた。



「ありがとうございます。」



「あぁ、」



ドキドキとなる胸が止まらない。



スマホを握りしめてポケットに入れる。



あぁ、これが、
私には資格のないものなんだ。



「先輩、あっちまで競争です!」



「はぁ?どこっ、て
おい!せこいぞ愛生!」



「はは!ハンデですよ!」



「アァー、もう!」



先輩、このドキドキは、
息切れのせいですから、私の気持ちを
惑わせないでください。