「もう歌わねぇの?」




後ろから声が聞こえてビクッと肩が跳ねる。




後ろを振り向けばさっき私を止めてくれた男の人が1人でいる。




「あ、いや、」




少しだけ怖くて戸惑ってしまう。



波留さんは気づいたようでいきなり後ろに下がりはじめ距離を図る。



私は怖くない範囲になるとコクンと頷く。




「あ、あの、さっきはありがとうございました。」




「お礼言われるようなことしてねぇよ」





波留さんは静かな声で言ってくれた。
そのおかげで少しは怖さが無くなった。




「ねぇ、歌ってよ。」




「え?」




「歌。



なんでもいいから歌ってよ。




お礼の代わりとしてさ」




こんなんでいいのだろか?と思ったがいいならと思い目を閉じで歌い始める。





「♪〜〜〜♫〜〜♬〜〜〜〜」




歌い終わり目を開けると波留さんも目をつぶって聞いていた。




その姿は綺麗で、それでも、闇に紛れるように真っ黒なのにそこにしっかりと存在していると教えられる。





「終わり?」





コクンと頷く。




「ねぇ、名前は?」




「み、みやぞ、の、、まい、、、です。」





「みやぞのまい?」




コクンと頷くと波留さんは大きく頷き。




「俺、玖波田 波留」




そう言って波留さんは真っ直ぐと私を見る。




多分、初めて男性としっかりと目を合わせた。





「なぁ、また、歌ってくれないか?




いつでもいい、また、愛生がここに来たら、溜まり場に遊びに来たらでいいから」



そう、波留さんが優しく言ってくれた。




「わ、私で良ければ」




「ありがとう」




そう言って波留さんが少しだけ笑った。



初めて、波留さんが笑う顔を見た。




それだけ言うと波留さんは私に背を向けて歩き出した。