生い茂る木々、地面から剥き出る巨大な根、フカフカな土、しつこく追る謎の黒い…狼、ひたすら逃げる男。
ここがどこなのかあの狼はなんなのか俺が何かやったのか。あまりに突然の出来事に理解が追いつかない。
黒い狼は五匹はいるだろうか、まだ距離はあるがそれも時間の問題だろう。
もうかれこれ5分は経っている気がするが、火事場の馬鹿力とでもいうのか疲れよりも恐怖が勝り自然と足が前に出る。

「グゥァァァギィィ!」

後方を逐一確認して走路を見定めてきたが、その視界に新たな白い客を捉えてしまったことで恐怖が絶望へと進化し体力が削られる。
群れの右方面から荒々しい鳴き声をあげて追りくるその白い狼、まさか自分がここまで狼に好かれる体質だったとは泣けてくる。
その狼は思いの外速く、瞬く間に黒の集団を追い越した。
そのあまりの勢いに言葉も出ないまま、白いオオカミが襲いかかる。

「…助けてぇ~!」