1つ屋根の下。
女が2人。
男は帰り、女だけで話をした。
獣になった女は泣いていた。
何か失くしてはいけない、大切なものを失った気がしたと。
もう1人の女は、慰めてから、こう言った。
確かに、大切なものを失ったかもしれない。
でも、
本当に失くしてはいけない大切なものは、
大切なものを大切と、
大事なものを大事だと、
感じる心。
涙を流して帰ってきたのだから、きっと大切なものを大切だと感じれている。
それだけで十分なんじゃないかな?
涙を流していた女は小さく頷き、泣きじゃくった。
夜明け前の空の下。
男が1人。
女達に気を遣い、始発で帰ることにした。
まだ街灯は点いている。
しかし、空は薄っすら明るくなっている。
男は1人歩きながら思いにふける。
夜明け前の空は綺麗だなと。
毎日の始まりに夜明け前の空はやってくる。
こんなにも綺麗なのに、なぜ毎朝見ようと思わないのだろう。
夜明け前の空は…
そう。
それは、
最も終わりに近く、
最も始まりに近い色。
人の生死のような美しい空だった。
fin.
