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「あ、わりいな。あの後、デートの約束入ってさ、お前の後処理に行けなくなった。一晩熟成された死体見に行くのも嫌だからさー、延期してくれって電話入れようにも電源切ってるしー、女待ってるしー、どうすっかなー、あ、そうだ彼女に連絡しとけになった。え?なんで連絡先知ってるって?お前が気に入る女なら寝取りたいと思ったからだよ。さっき廊下ですれ違ったけど、好みじゃねえから番号消しとくわ。
はあぁ、でも、正直、火葬すんのもめんどくさく思ってたし、お前との約束破るけど、心痛まないからさー、後からこっそり金だけ貰いに行けばいいかと思ってたんだけど。なあ?まだ部屋に金置いてある?あ?ない?そうかよ。じゃあ、これ貰っていくなー」
などと言いつつ、奴は彼女が見舞いに持ってきたフルーツの盛り合わせを手に持つ。
あの後、気がゆるんだせいか、睡眠薬を一瓶飲んだ効果が出て昏倒した。救急車で運ばれ、首もとにあったロープの痕のこともあってそのまま何日か入院することになったが、まさか奴が見舞いに来るとは思わなかった。
本人からしてみれば、見舞いではなく、死に損ないを笑いに来た程度の理由なのかもしれないが。
「ありがとう」
「どうもしてねえけど、どういたしまして」
自然と口にした言葉を受け取り、退室する奴。入れ違いで彼女がやってきた。大量の花をさした花瓶を抱えながら。
お腹が減っているだろうと昼休みに会社を抜け出し、フルーツを買ってきたと思えば、会社終わりにはこうして花を持ってきた彼女。尽くされているなと思う反面、無理をしないでほしい。明日からはお見舞いなくてもいいよと、気持ちを伝えれば、それです!指さされた。
ーー尽くされ続けると、そんな心配をしてしまうんですよ!
はたっと、指摘されたことを鑑みる。
そうか、彼女もこんな気持ちだったのか。
俺は愛しているからこそ、何でもしたくなっていたが、そうか、駄目なのか。
「ちょっと待って、それなら君もまた、俺の世話を焼いてくれようとすることもないんじゃ」
沈黙する彼女。最終的に、今はいいんです!と強引にまとめられてしまった。
その強引ぶりに笑ってしまうも、納得した。
正解不正解できっちりと判別出来るものじゃないんだ。人の感情は。
「ねえ、もう一度聞いてもいい?俺はきっと、前と変わらず君が好きだ。また君を泣かせる真似をしてしまうかもしれない。それでも、そばにいてもいい?」
もう一度。そう付け加えるほど、聞いたことだった。何度も確認したのは、こんな俺と離れてほしかった願いがあり、もう一方は。
ーー他人同士が付き合っているんですから、噛み合わないことはたくさんあるのは当たり前です。でも、それでも、結局は。
彼女のこの言葉が聞きたかったから。


