私は無意識に蓮君の服の裾をつかんでいた。

「いっ....ちゃ....いや。」
声が出なくなって、一番、よく発音できたと思う。

すると、蓮君が私をきつく抱きしめた。
「莉菜が辛いとき、助けにいくから。」
少し痛かったけど、それ以上に心地よかった。


それからはよく覚えていない。
川瀬という、優しそうな夫婦のところに引き取られた。
最初は警戒したけど、本当に優しくて、本当のお母さんみたいだった。

でも、二人とも蓮くんやお兄ちゃんの話をすると、必ず、涙ぐんだ。

そして、私はいつのまにか昔の話をしなくなっていった。
徐々に昔の記憶を削除し、新しい生活を楽しんだ。

昔の事を忘れていることすら分からなくなっていたんだ。