「なに」

「…………」

正直な思いを打ち明けてしまえたら、どれほど楽になるだろうかと思った。でも、そんなこと言えるわけがない。

「なに、ちゃんと言って」

「……もうやだ」

わたしは絞り出すように言った。

颯太くんがあわてふためく。

「なんで、なにが? なにがやだ?」

「……」

「理緒」

「……あんまり優しくしないで」

そう言ってしまってから、自分の言葉の意味深な響きに恥ずかしくなる。
こんなことを言ったら、このままだと颯太くんのことを好きになってしまうって、言ってしまってるのと同じことだ。

「ごめん、ちがう、ちがうの。……今日はありがとう。また」

颯太くんの目を見ることもできず、一気にそういうとわたしは足早に立ち去った。

もう颯太くんは追いかけてこなかった。

わたしは小走りに駈けながら考えていた。

えれなとわたしじゃ比較にならないことはわかってる。

本当にえれながわたしを頼りにしてくれているとしても、だとしても、女の子としてはえれなにはかなわない。


それなのに。
それなのに、颯太くんが優しくしてくれるから、つい期待してしまう。