雨は降りやむ気配を見せず、ファミレスをあとにした時間でも勢いよく地面を雨が打ちつけていた。
会計を済ませた私がお店を出ると、少し遅れて敬佑くんが傘を広げて私の上にかざしてくれた。

でも、私はそれを拒否した。


「ちょっと走れば車だから、傘はいいよ」

「気を悪くしたのならすみません」

「そんなことない」


彼が言っているのは、お店の中での会話のことだというのは容易に理解できた。でも、それを掘り返してまた話題に出すと疲れそうで、今すぐこの場を立ち去りたかった。

きっと社会人経験のない敬佑くんには、まだ分からないことなのだ、おそらく。


「車は?どこに停めてます?そこまで一緒に行きますから。濡れちゃいますよ」

「帰るだけだもの、平気よ」


私の車はお店の裏に停めた。
実を言うとそこまで行くと距離があるので、雨で体が濡れることは間違いないだろう。
それを見越しての彼の発言なのかどうかは疑わしいところではあるが。

こんな日は1人で過ごすのが一番いいのだ。今日で実感した。私のくすぶった気持ちを誰かに話すことは、たぶんこの先も無いのだろう。


「そんな心配そうな顔しないで。ちゃんと帰れるから。じゃ、またね」


あからさまに私を気にかけるような表情を浮かべている敬佑くんへ早口にそう言うと、軽く手を振ってお店から走り出した。
強い雨が全身をうつけれど、天気なのだから仕方がない。

一人暮らしのアパートへ帰ったら、すぐに暖房をつけて服を脱ぎ、シャワーを浴びれば風邪も引かないだろう。
ここからアパートまでそんなに遠くない距離だし。


お店の裏手に回ったところで、自分の車が停まっているのを確認し迷うことなく目指していたら、後ろから強い力で手を引かれた。

誰の気配も感じていなかったので、何が何だか分からず驚いているうちに体を引き寄せられて誰かの腕の中にくるまれる。
暗闇のなかの、一瞬の出来事だった。


「敬佑くん?」


振りほどくのも忘れて、遮られた視界で相手を探るように尋ねる。
うなずく気配が感じられた。