「ちょ、ちょっと。
 コート。
 ってか、靴が脱げる。
 あ、バッグー」

「もう、めんどくさいなあ」


宗忠はひょいと倫子をお姫様抱っこで抱え上げた。


いやいやいや、恥ずかしいって。


倫子は宗忠の腕をバシバシと叩く。


天蓋テントの外ではウェイターが動じず、丁寧に頭を下げて見送ってくれた。


ああ、もう、私の人生はどうなっているのだろう。


おかしい。


おかしいぞ。


築20年ぐらいの木造アパートで、非正規職の夫と暮らしているのが似合っているはずなのに。