キーン コーン カーン コーン……

授業が始まった。
一限目は数学。
数学とか訳解らなさ過ぎて嫌い。

ぽんぽんとテンポよく、私を置き去りにして授業は進んでいく。

は?
え、ちょ…な、何?なんでそこ60°になるの?
早くも頭が混乱してくる。

…でも、こんな時はお隣さんの特権を使おうではないか。
問題が解けない時はイライラするけど、反面、深殊に訊けるから嬉しい。
矛盾した感情だけど、頭の悪い私ならではの、勉強のできる深殊との時間だと思う。

「深殊、さっきの60°のとこ、なんでそうなるの?」

小声で、先生に聞こえないように話しかける。
小声だから、聞き取るためにお互いの距離が近くなる。
ほんと、この時は私の至福の時間。

「ん?」



…不意打ちだった。

聞いたことのない、いつもより低めの、でも優しげな深殊の声。

「…………」

「…え、何どこ?」

「あっ、、えっと、ここ」

第二声はいつもの声だった。

「ここはー、点Bをここにしたらくさび形になるでしょ?…」

わかりやすく丁寧に教えてくれる。
時々、私が理解していることを確認するかのように顔を覗き込んできて。

「あー!なるほどー!ありがと深殊」

「おう」


「…深殊ってさ、よく悠依が『99.9%嘘言ってる』とか言ってるけど、勉強とか教えてくれる時は絶対嘘つかないよね」

「…んー?」

…いや、そもそも勉強教えてくれる過程で嘘教えられたら本末転倒するわけなんだけど。

深殊は、私の言葉に曖昧な返事を返して軽く笑った。

(深殊って犬顔なんだよな…)

身長も無くて私より2〜3㎝高いだけっていうのもあって、小犬みたい。

優しそうなタレ目。

それに対してしっかりした上がり眉。

鼻も小さくて。

上唇が真ん中あたりでアヒル口みたいにウェーブ描いてて。

顔も小さくて。

一言で言うとイケメン。

やっぱりちゃんみたいに狙ってる子だっているわけで…

私は顔で落ちたわけじゃないけど、やっぱりあの顔で微笑まれたり覗き込まれたりしたら、
心臓が煩くなる。

深殊は、私の勝手な解釈だけど鋭いタイプだと思うからバレるのも時間の問題…というか、もうバレてんじゃね…?

私が好きなのもう知ってて、敢えてドキドキする事してるとか…。
……あり得るな。

いや、考え過ぎか?


…まぁ、いい。

だって知ってても何も言わないってことは、
受け入れられてるって事でしょ?
じゃあまだ、
「うん、好きでいてもいいよね」

「へ?、、何が?」

「へ??」

「何を好きでいても良いって?」

「えっ」

諭すような眼差しと目が合う。

…あぁ、好きだなぁ…。

…って!

「数学!」

「数学好きなの?はは、いっつも『数学滅びろ』とかボヤいてるのはじゃあなんだろうなぁ〜ww」

「…っっ」

今度はからかわれる。

私はなんだってこんなに私の心を振り回す奴に惚れたんだろう?