いつものように適当な返事を返すと、私は机に広げた楽譜に視線を落とした。


「そろそろ、違う曲も練習しようかな……」


楽譜を手に、ボーッとしていると、空いた窓から入ってきた暖かい風が、私の短い栗色のショートボブを撫でる。


時間が経つのは早い。

入学したと思ったら、来年には卒業してるなんて……。

だからこそ、今出来るのは夢のためにピアノを弾きつづけることだ。


「あ〜雨音さん、またピアノ弾いてきたの?」


そんな事を考えていると、私を苛立たせる、猫なで声が聞こえた。


「……そうだけど」


顔を上げれば、今どきの長い茶髪のゆるふわパーマに、パッツン前髪の、お人形みたいな女子が立っている。


「やだぁ〜、私は美人で、ピアノもやってるのぉ〜♡アピール??」

「…………」


本当に、イラつく……。

毎朝私の所にやってくるこの女子、北園 雪乃(きたぞの ゆきの)は、何かと私に突っかかってくるのだ。