テレビを見てたら、芙祐がリビングに戻ってきた。



「ただいまぁー」


ソファに座る俺を後ろから抱きしめてくるのは想定内。



「離せ、暑い」


「イヤ」



ふわふわもこもこした薄いピンクのパジャマに、濡れた髪。


頬にキスされた。



「やめろ」


まじで勘弁して。



芙祐を俺からはがして、「ドライヤーしてこい」って言ったのに



「ハーフタイム。ドライヤーは疲れるからね」


そう言って、俺の隣に座った。



髪をポンポンと拭きながら、俺の方を見上げて、口角を上げる。


……!


「化粧してない」


「お風呂入ったからね。あとでまたするからちょっと待ってね」


そう言いながら、心なしかタオルで顔を隠す芙祐。



「せっかく風呂入ったのに化粧する意味がわかんないんだけど」


「乙女のたしなみ」



「てかその顔見せて。初めて見るし」


「なんかやだ」


あ、隠しやがった。


無理やりタオルはがして


「やぁーだーーー」


って言いながら遮る小さな両手も抑えつけたら

すっぴんの芙祐がいた。



恥ずかしそうに、大きな瞳はゆっくりと視線をずらす。



化粧がないから目元はさっぱりして、普段くるんとしている長い睫毛はいつもよりまっすぐ伸びている。


パッチリの二重に、白い肌。
赤い唇、火照った頬。


目以外のビフォーアフターは俺にはよくわかんないけど、


……化粧しない方が好きかも。


ていうより、恥じらってるの可愛すぎる気がするんだけど。



髪が濡れていていつもより黒髪に近い。



「いつ黒く染めんの?」


「センター試験までには染める」


そう言いながら、芙祐はタオルで髪を拭くふりをして顔を隠そうとする。



これほどしおらしい姿はかなり貴重。



「もう普段、黒髪にスッピンでいいじゃん」


「やだ。テンション上がんない」


「もったいな」


「ヤヨは清楚が好きだもんね」


芙祐は睫毛を伏せて、小さな両手で紅茶のマグカップを持つ。


フーフー冷まして一口飲んで、ため息。



「じゃあ今日は化粧しない」



そう言って俺を見上げる。
化粧しなくたって上目遣いがきまってしまうし。



……なんかもう全部、かわいすぎ。



「あー、うん。そう」


咄嗟に目をそらしたら、芙祐が笑ったから、平静を装う。


「ヤヨちゃん」


耳元で甘え声。


いつも芙祐から香る、花みたいな匂いが鼻先をかすめる。


ふわり、顔が近づいたから



「……!」


咄嗟に距離をとった。


やば。わざとらしかったかも。


一気に、間に人が一人入るくらい距離がとれた。


「……なんで逃げるの」


「なんとなく……」



露出なんか全然ない安全すぎるパジャマ姿の芙祐なのに。



なんかもう、無理かも。
心臓、持つ気がしない。



貧乳のくせに。露出もないくせに。



何がこんな色気あんの?



「髪乾かしてくる……」



やばい、多分あいつ拗ねた。