無事芙祐が風呂に入ったと思っていたら
ガチャ、とリビングのドアがあいた。



「ヤヨちゃんごめん、ホック外してほしい」



「はぁ?!」



バカじゃねぇのって叫びそうになったけど、芙祐が着てるワンピースの後ろの方を指差してるからやっと意味がわかった。



ワンピースの背中にあるファスナーの一番上に1つだけあるホック。



紛らわし……。そっちか。



「ヤヨちゃん今違うホック想像した?」



にやっと笑う芙祐の顔が目に浮かぶ。



冷静に、返す。悪魔に負けてたまるか。



「芙祐の外してもなぁ」


殴られるだけだろうし。


と、落ち着いた返しをしたのに。



「どーせ貧乳だもん」


って、睨まれた。



「そんなこと一言も言ってないだろ」



「何度言われたかわかんないんですけどー」


あかんべぇしながらリビングを出てった。
なにあの可愛いの。





芙祐が風呂に行ってしばらく経ってからスマホを見ていると、


ピーピーっと電子音、の後に「お風呂が呼んでいます」……って、呼ぶな。



……まじであいつなんなの。



3回目の呼び出し音で諦めて脱衣所に向かった。



脱衣所の扉の外から



「何!」

と叫ぶ。


「脱衣所入ってきてくれる?聞こえない」


とかいうこいつは本物の悪魔だと思うから。



風呂の磨りガラスのドアを視界に入れないように入ってもう一度「何」。



「あのね、鏡の右側の棚、上から3番目にドライヤーとトリートメント入ってるから使って」



「あとでいいんだけど」



「風邪ひくからすぐね」


言うだけ言ったら、
ジャーっと、シャワーの音が聞こえ始めた。


はぁ……。この状況なに。



……逆に虚しいほど俺、信頼されすぎだろ。