「ヤヨって、奥手な方だと思う?」



「奥手……って、手を出さないってこと?」



あたしが頷いたら、「そんなことはないと思うなぁ……」って、麻里奈ちゃんは宙を眺めて思い返す。



「どちらかといえば、狼くんだと思うけど。……肉食系っていうの?」



「え、」



「芙祐ちゃんも、付き合う前にキスされたんじゃないの?」



くすりと笑う、麻里奈ちゃん。


うん。なんで知ってるの。



「でも付き合ったら全然手、出されないもん」


「そうなんだ。なんでだろうね。私の時は付き合って2ヶ月くらいで、したかなぁ」


したって、

なにを?


「キス?」


「ふふ、違うよ。初めてやっちゃんにキスされたのは……小学生のときだよ」



「小学生?!」



まって、ヤヨって、



「そんな前から麻里奈ちゃんのこと好きだったの?」



「そうみたい……」



懐かしい、って微笑んだ。麻里奈ちゃん……。



あ、じゃあ、付き合って2ヶ月でしたことって、キスより上のこと。


――この話は止めよう。
絶対ダメージはんぱないから。



「ありがとう、麻里奈ちゃん。気をつけて帰ってね」



「うん、またね。芙祐ちゃん」




ひゅう、っと風が吹いた。



……そうなんだ。



彼氏の好きだった人に
付き合ってた頃の話を聞くってことは
人類のタブーってこと。

今ちゃんと学んだからね。




ヤヨ、麻里奈ちゃんとは違って
”あたしには”
手を出さないんだ。



なんか、ショックかも。


すっごいショックかも……。