「あれ?芙祐ちゃん一緒じゃないの?」

思わずそう聞くと、
「芙祐だいぶ前に帰ったよ」なんて
平然と言う藍ちゃん。


「何も知らない?」

「何もって?何を?」

「……あ、いや……なんでもない」

俺はポケットの中のスマホを取り出しながら、急いで廊下に出た。
芙祐ちゃんのスマホに発信すると、
案外すぐに出てくれた。



『もしもし?』

スマホの向こうから聞こえる芙祐ちゃんの声は
拍子抜けするくらい、本当に何事もなかったみたいで。

「今一人?」

『うん。もうすぐ電車に乗るけど』

「あ……そう……」

絶対大泣きしてるって思ってたのに。


「芙祐ちゃんさ、弥生くんと」

『待って慶太くん。何か知ったんだとは思うけど、今から入試終わるまで、ソノヒトの名前、絶対に口に出さないで』

「……わかった。芙祐ちゃんが大丈夫ならそれでいいけど……大丈夫?」

『うん。ありがとう。こんな時期にいっぱい迷惑かけてごめんね……ほんとごめんなさい……』

ものすごく申し訳なさそうな声が聞こえるけどさ。

「俺は芙祐ちゃんのこと迷惑とか絶対思わないって」

『あ……、そうだった。強い味方?』

「そうそ」


ふふっと笑う声が、やっぱり少し元気ないね。

あえて確信には触れず、すこしだけ話して電話を切った。