「……まぁいいや。弥生くん。もう一回言うけど。本当にこのまま別れるなら、俺は芙祐ちゃんおとしにかかるからね。それでもう絶対譲らない」


桜木慶太の表情は大真面目で。
正直なところ、かなりひるんだ。


「……すげぇ自信。どっからわいてくんの、ソレ」

「弥生くんの自信のなさには感心するよ。逆に」

「あっそ」


椅子から立ち上がった。


「帰る?」と聞かれて軽く頷く。


話聞いてくれてありがとうとかは全然思ってないから言わない。
そう、思った時。気づいた。


「……え。お前さ。俺とこんな長話してる間に芙祐のとこ行った方が有利だったんじゃねぇの」

「有利も何も。戦う相手が今はショボ過ぎて……」

「……まじでうざい」

「ははっ。まぁ芙祐ちゃんには藍ちゃんリコちゃんがいるだろうし。弥生くんがショックで自殺しちゃったら芙祐ちゃん可哀想じゃん」

「誰が死ぬかよ」

「半分くらい冗談だけど。これも俺の戦法だとでも思っておいていいんじゃない?」


芙祐をおとすための戦法?

どういうこと?


「……もうお前、わけわかんね……」


「俺は本気で、芙祐ちゃんしかみてないってこと。最後の忠告ね」


真剣な目が怖すぎる。

眉間に皺を寄せる俺に、あいつは表情を和らげ、余裕ありげに笑う。

「じゃあね」

桜木慶太は軽く片手をあげて、教室を出て行った。