「何……なんか、麻里奈に言われた?なんで泣いて……」


狼狽えるヤヨと、その質問。
あたしは本気で訊きたくなる。


「わかんないの?」


「いや……」


言葉を探すように、黙り込むヤヨ。


ヤヨの手の力がようやく抜けて、そのまま振り払った。



「ヤヨは、彼女との約束より、元カノを優先して。元カノとの用事がすんでも、彼女と約束をやり直そうって、そういうの思わないんだよね?」


「ドタキャンしたのに、また誘うのも悪いかと思って……」


ヤヨは、後ろ頭をかいて
そう答える。


「だから、あたしとの約束だった初もうでを、麻里奈ちゃんとしちゃうんだ……」


「いや、」


「お守り、これ。買ったけど、無駄だったね。麻里奈ちゃんと買ってたもんね?」


ポケットから二つのお守りを取り出して見せた。


その一つを、ヤヨに押し付ける。




「あたしには『軽率だ』とか意味不明なこと言って、指輪くれなかったのに、麻里奈ちゃんにはあげてるじゃん」



「え?それは……」



「それに、なんで麻里奈ちゃんのお気に入りのブランドのを、わざわざプレゼントに選ぶの?」



「あれは……似合いそうだと思ったから」



「デリカシー、なさすぎ」


ヤヨは何か言おうとして、やめた。



「大学も、麻里奈ちゃんと約束してたってほんと?だからあんなに頑張ってるの?」


ヤヨは首を横に振る。
そして、うなだれながら、


「何言っても言い訳に聞こえそうだけど……。芙祐のことしか、考えてない」



「ヤヨ、よくそんなこと言えるね。……さすがにそれは無い」



あたし、涙目のまま、
鼻でわらった。



「ヤヨって誠実じゃ無いんだなって、今日思ったよ」



何も言わない、ヤヨ。

そうじゃ無いって
男らしく
言い返してみればいいのに。



「それに、どうしてあたしじゃなくて、麻里奈ちゃんに電話したの?」



「スマホ忘れたんだよ。だから、覚えてる番号……」



そこでわかりやすく言葉を止めたヤヨ。


覚えてる番号にしか、
電話できなかったから。



……麻里奈ちゃんの番号は
覚えていたから。



だから、麻里奈ちゃんにかけたんだね?



「麻里奈ちゃんがそんなに好きなら、あたしは、もういいよ」



固まるヤヨをおいて、
あたしは神社から飛び出した。