「じゃあ、例えばの話をするね。A君は物心ついた頃から虐待をされていました。」
「は?」
いきなり例え話をしだす恋ちゃんについていけない俺。
「黙って聞いて。世間を知らないまま小学生になっても学校に通わせてもらえない、虐待をされ続けてるA君は、どんなに虐待されても近所の大人や周りの人間に告げ口をしませんでした。助けを求めませんでした。さてそれはなんででしょう」
「そんなの親が怖いからに決まってるじゃん」
「ぶっぶー。残念。やっぱ馬鹿だなぁ新は。本当にヤる事しか頭ないんじゃない?」
はっ、と馬鹿にしたような笑みを浮かべる恋ちゃん。
俺の怒りは沸沸と溜まっていく。
そんな俺のことを多分分かっていながら、話を続ける。
「正解はね。A君は虐待されるのが当たり前だと思っているから。」
「……どういうこと?」
虐待が当たり前なわけない。
「物心ついた頃には既に虐待されていて、それが日常になっているA君にとって虐待されるのは"当たり前"の事であって、虐待されない"普通"を知らない。虐待を虐待なんてA君は思ってない。少し語弊あるかもしれないけど、だから助けてなんて思わないしまず言わない。」
「…なにが言いたいの」
「つまり、自称愛された事のない新は何故愛された事がないと思うのでしょうか?愛された事がなかったら、それが当たり前であって"愛される"なんて感情分からないはずなのに。」
「俺はっ……!」
あとは自分で考えな。そう言った恋ちゃん。
恋ちゃんの言っている事は正しかった。
確かにそうだ。
なんで俺は"愛された事がない"と思ったんだろう。
一度でも、愛された事があったから…?
"愛"を知っていたから?

