「じゃあ一緒にタイルのメーカー探して下さいよ。あの我が儘デザイナーの要望に応えてくれそうな所」


そうボヤきながら頭の中に一ノ瀬圭太が浮かんだ。

ツン…と胸の何処かが軋んで、何だか気分が沈んできそう。


「タイルね。よぉし、探してみるか!」


ワイシャツの袖を捲り上げる高木主任はいい人だ。
絶対に偉ぶらないし、どちらかと言えば腰が低過ぎて物足らないくらいのところがある。

それでもいざという時は一番アテになるし頼れる。

こういう人だったからこそ、私も頑張って仕事を覚えようとしてきたんだ。



(そうだったよね…)


このところ、忘れてたことを思い出すのが増えた。
特に一ノ瀬圭太との思い出は、胸がきゅんとするくらいに頭に浮かぶ。


カッター訓練の時に皆の先頭に立ってオールを動かしてたことやキャンプファイヤー点火の時に主役をこなして、他のクラスの生徒達までも巻き込んで盛り上げてたこと。

嫌になる程成績が優秀で、授業中も先生に当てられると即座に答えられてたこと。

いつもいつも私を「大田美晴!」とフルネームで呼び、それがしかも大声で叫んでるみたいだったこと。


一学期の終わりが近づいた頃、ぼぅっとしてることが増えたこと。

それを心配してやったら、嬉しそうにされたこと……。


どうしてこんな事まで覚えてるんだろうってことまで蘇ってきて、同時に胸がスゴく切なくなる。